加賀象嵌・彫金作家 中村和恵 KANAZAWA EXPERT #2

「KANAZAWA EXPERT」は、昔からの文化が息づく街・金沢で、伝統の技や金沢の歴史・文化を訪れる人たちに発信している作家や職人、その道のプロフェッショナルたちをご紹介する企画です。金沢を熟知する案内人でもある方々に、ここでしかできない体験や金沢の楽しみ方をお聞きします。今回は鏨(たがね)を使った手彫りや加賀象嵌の技法を取り入れたアクセサリーを制作している金属彫刻所『morinoko』の中村和恵さんに話をお聞きしました。

金属が持つ深い色の美しさに魅せられて

  • 加賀象嵌の技法を使った「結晶ブローチ」

  • 加賀象嵌の技法を使った作品「あの子が好き!」

  • 加賀象嵌の技法を使った「umeピンブローチ」

  • 純銀・手彫りの「ひかりネックレス」(左)と「ひかりピアス」(右)

  • 加賀象嵌の技法を使った「三毛猫ブローチ」

  • 「モノクローム菓子切り」

まずは加賀象嵌の歴史や技法について教えてください。


加賀象嵌は、加賀藩の時代の初めの頃(16世紀末)に誕生しました。金や銀、鉄など土台となる金属に鏨で溝を彫り込み、更に刃先の形状が違う鏨で溝の底を広げて、そこに他の金属を嵌(は)め込む装飾技法です。江戸時代は刀の装飾や馬具に用いられており、なかでも騎乗時に足を乗せる馬具の一種「鐙(あぶみ)」に施された加賀象嵌はとても美しく、制作工程からも分かるように外れにくいことから頑丈で有名でした。


加賀象嵌や、金属彫刻の魅力とは何でしょうか。


もともと「色」に魅力を感じていて、大学で油絵を学んだのも色が好きだったからなんです。加賀象嵌は仕上げの着色作業「煮色(にいろ)」で変化する、金属が持つ深い色の美しさが魅力。また刻印は綺麗に打つのももちろん良いですが、様々な角度で打つことで味が出たり、刻印を組み合わせることであらゆるバリエーションができたりするところが面白いですね。


オリジナルの模様が施された加賀象嵌の作品や、さまざまな柄を組み合わせたかわいらしいモチーフのアクセサリーが素敵です。現在の仕事を始めたきっかけを教えてください。


祖父と父が金沢で金属彫刻所を営んでいたのですが、子どもの頃は特に家業を継ぐことは意識していませんでした。大学で油絵を学び、卒業後は自然な流れで父の仕事を手伝うと同時に、金沢職人大学校「加賀象嵌・彫金専門塾」に通って加賀象嵌や彫金を学びました。その後、県外での介護の仕事を経てUターンし「morinoko」の活動をスタートしました。現在は祖父や父が大切に使っていた道具を受け継ぎ、手彫りで刻印や純銀のアクセサリーを制作しています。

種類豊富なオリジナル刻印を使って
オリジナルのネームチャームづくり

  • 加賀象嵌のチャームと刻印だけを施した丸いチャーム

  • 刻印のなかにはコーヒー豆やマグカップなどもあります

  • これまでに体験した人たちの作品を参考にできます

  • 中村さんの祖父や父が手掛けた作品に見て触れることができます

  • 体験の際に作品を買い求めることも可能です

ワークショップを始めたきっかけは何だったのでしょうか。また、『morinoko』でできる体験の魅力やポイントを教えてください。


介護の仕事をした経験から人と関わる楽しさを知り、ワークショップを始めました。内容を考えるにあたっては友人から実際に体験をしてもらい、リアルな意見を参考にして現在のスタイルに行き着きました。体験をする方にはとにかく楽しんでいただきたいので、どんな仕上がりを目指すかをヒアリングした上で、サポートは最小限にとどめ作業に没頭していただけるようにしています。


真鍮板に彫られている溝に純銀の線を打ち込む象嵌体験や、犬や猫、アルファベットといった種類豊富なオリジナル刻印を使って真鍮に模様を刻印する体験をして、ネームチャームやペットチャームなどを作ることができます。パートナーや恋人へプレゼントするために作る方も多いですし、「推し」の名前を彫る方もいらっしゃいます。


体験をされた方は「思ったより難しい」とおっしゃるのですが、実際に制作する前に金属一枚分の練習ができるので、安心していただければと思います。まっすぐに刻印を打てなくても大丈夫。二度打ちしたりあえてズラしたりするのも味が出ていいですよ。最近ではボトルネーム作りも始めたので、石川の酒蔵でゲットした日本酒に付けるのもおすすめです。



工房の近隣にも見どころがたくさんあります

  • 旧北国街道を示す石碑

  • 「加賀鶴」で知られる「やちや酒造」

  • 卯辰山寺院群 全性寺

  • 卯辰山寺院群 鬼子母神 真成寺

金沢の魅力や、中村さんおすすめのスポットを教えてください。


私が小さい頃から慣れ親しんだ地元に、加賀藩の参勤交代に使われ、松尾芭蕉も歩いたという旧北国街道が残っています。「下口の松門」跡や「鳴和の滝」、安産や子育ての神様として慕われている「児安(こやす)神社」、酒蔵体験を受け入れている「やちや酒造」など見どころもたくさんもあるので散策するのもおすすめです。また、ひがし茶屋街から『morinoko』まで歩いていらっしゃる方は、約50の寺院が散在する卯辰山山麓寺院群を訪れてみるのもいかがでしょうか。


中村さんにとって「金沢」とは何でしょうか。


私にとって金沢とは、コンパクトで住みやすい街。金沢に何度も旅行に来られる方がいらっしゃいますが、観光地から少し離れたところにも先ほど挙げたような魅力的なスポットがたくさんあるので、散策しながら楽しんでいただきたいです。



morinoko 中村和恵さん

1978年、金沢市で金属彫刻所を営む父のもとに生まれる。2000年、金城短期大学油画学科研究科卒業。家業を手伝いながら金沢職人大学校「加賀象嵌・彫金専門塾」で坂井貂聖氏に師事し、加賀象嵌を学ぶ。その後、県外での介護の仕事を経てUターンし「morinoko」として作家活動をスタート。2004年、第33回伝統工芸日本金工展入選、2012年第68回金沢市工芸展入選、2018年第74回金沢市工芸展入選ほか。

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