加賀友禅作家 平野陽明 KANAZAWA EXPERT #1

「KANAZAWA EXPERT」は、昔からの文化が息づく街・金沢で、伝統の技や金沢の歴史・文化を訪れる人たちに発信している作家や職人、その道のプロフェッショナルたちをご紹介する企画です。金沢を熟知する案内人でもある方々に、ここでしかできない体験や金沢の楽しみ方をお聞きします。

今回は金沢駅からほど近い場所に工房を置き、作家として活動するだけでなく体験教室を通じて多くの方に加賀友禅の魅力を伝えている『友禅工房 陽明』の平野利明さんに話をお聞きしました。

祖父や父が加賀友禅を作っていることが、幼心ながらに誇らしかったです

  • 伝統的な加賀友禅の絵柄の訪問着(陽明作)

  • 工房につるされた制作中の友禅

  • 花嫁のれん(陽明作)

  • 子どもたちに加賀友禅を知ってもらうためのイベント用の友禅の制作

はじめに、加賀友禅の特徴や魅力を教えてください。


友禅といえば京友禅もありますが、加賀友禅というのは金沢の文化と密接に関わっていると思います。花鳥風月を描くにしても、質実剛健、華美に描かず実物により近いことを重んじる風潮がありますよね。また柄は小ぶりで色を多用し、かと言って鮮やかさばかりを追い求めない。わざと濁したり「虫食い」と呼ばれるような植物が枯れた模様を描いたりする。パッと見ただけではわからない、じっくりと見ることでわかるような奥深さや美しさがあると思います。


平野さんは、どのようなきっかけでこの道へ進まれたのでしょうか。


加賀友禅は「糊置き」や「絵付け」、「地染め(引き染め)」など、各工程をそれぞれ専門の作家や職人が分業で行っています。祖父は当時、金沢で5軒ほどしかなかった染物屋を営んでおり、「地染め」と呼ばれる、刷毛を使って着物全体の地色を染めることを専門に行っていました。父も当然のように後を継ぎ、僕は二人の姿を見て育ちました。子どもの頃の僕にとって、加賀友禅といえば高級品のイメージ。祖父や父が加賀友禅を作っているということが幼心ながらに誇らしかったです。最終工程である地染めを通じてたくさんの作家の作品を目にするうちに将来は作家として活動したいと思い、この道へ進みました。


現在の平野さんのお仕事の内容、やりがいを教えてください。


オーダーメードの着物を作ったり、体験の受け入れなどを行ったりしています。直接ご依頼をいただいて、実際に仕上げたものを納品したときに喜んでいただけるのが一番の醍醐味ですね。加賀友禅というと着物をイメージされる方が多いですが、タペストリーのような室内装飾、洋服なども手掛けています。 

友禅の真髄に触れる、自由度の高い絵付け体験

  • 金沢駅から徒歩5分の「友禅工房陽明」

『友禅工房 陽明』でできる体験の魅力やポイントは何ですか。


写真L判サイズや色紙サイズの彩色体験のほか、ご希望に応じたオーダーメードの体験を行っています。目指しているのは「友禅の真髄に触れていただく」ということ。少人数で一人ひとりに寄り添ったレクチャーを心がけています。


当工房の体験は自由度が高いことが特徴で、一つは選べる絵柄の種類が多いということです。下絵の種類は常時30種類あり、加賀友禅らしい花鳥風月はもちろん、風景や動植物、食べ物など様々な絵柄を用意しています。絵の具の種類もはじめから12色ほどを用意しているほか、要望に応じてより細かい色を作ることもしています。せっかく体験していただくからにはそれぞれのお客様にとって充実した時間になってほしいですし、自分で手掛けた「作品」を持ち帰っていただきたいと思っています。

浅野川沿いを散策して、金沢の下町の雰囲気を感じて

  • 浅野川の友禅流し ※現在は行われません

  • 浅野川大橋から見る浅野川の風景

  • 浅野川の梅の橋と「滝の白糸」像

  • 桜の主計町茶屋街と浅野川

  • 6月の百万石まつりに行われる「加賀友禅燈ろう流し」@石川県観光連盟

金沢の魅力や平野さんおすすめのスポットを教えてください。


祖父や父は工房で染めや蒸しの作業をした後に近所を流れる浅野川で「友禅流し」をしていたので、子どもの頃から川は身近な存在でした。今でも仕事の合間、息抜きをしたいときには浅野川沿いを散歩して気分転換をしたりリラックスしたりしています。


平野さんにとって「金沢」とは?


住む土地として、誇りに思える街ですね。街が日々変わり続けていることが面白く、長年暮らしていても飽きることがありません。観光客の方には、日帰りではなく、ぜひ一泊していかれることをおすすめします。滞在時間が増えれば体験できることも増えますし、より一層金沢の魅力に触れることができるはずです。



友禅工房 陽明 平野利明さん

1962年、金沢市出身。祖父・父が加賀友禅の「染め」の工程を担う仕事をしており、幼い頃から加賀友禅に触れ、⼿仕事の素晴らしさや伝統⼯芸の重みを感じて育つ。1988年に⾦沢美術工芸大学大学院を修了後、地染め業を営む「桜井染⼯」(金沢市)にて⼀年間の修行を経て、「有限会社 下村染⼯」(同)へ⼊社・百貫華峰⽒に師事。1993年「日本現代工芸展」初入選、1994年「日展」初入選、1995年「伝統加賀友禅工芸展」初入選金賞受賞、1999年「日本現代工芸美術展」現代工芸賞受賞など受賞歴多数。2008年「株式会社友禅アート染華」を設⽴と同時に、同社代表取締役社⻑に就任。2016年12月に「株式会社友禅アート染華」代表取締役を辞任し、2017年から個人として加賀友禅の体験を提供することを目的に⽯川県⼩松市島⽥町にて「⼯房陽明」をスタート。2021年3月に工房の拠点を金沢に移す。



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