音楽をめぐる旅 1

音楽をめぐる旅 Vol.1 金沢蓄音器館

金沢蓄音器館
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「エジソン」「ビクター」「H M V」など舶来の蓄音器から、加賀・前田家の17代当主が愛用した蓄音器の王様「クレデンザ」、国立科学博物館で重要科学技術史資料登録された国産量産型蓄音器の第1号「ニッポノホン35号」など、貴重な蓄音器が常時150台も展示されている。

「金沢蓄音器館」は、エジソンの発明から始まった蓄音器の歴史と技術、明治・大正・昭和の各時代に活躍した蓄音器を見て、聴いて、体験できる貴重な施設です。初代館長は、音楽を通じて地域文化に貢献したいと、戦前から蓄音器店を営んできた八日市屋浩志さん。手回し式の蓄音器が姿を消しつつあった昭和50年代のある日、無造作に捨てられていた蓄音器を見て心を痛め、「直せばまだ鳴る・・・」と収集・修理を始め、気付けば蓄音器540台、SPレコード(蓄音器用のレコード)2万枚もの山蓄コレクションとなりました。そのコレクションを金沢市が譲り受け、2001年7月に開館したのが「金沢蓄音器館」です。


1日3回の実演で、蓄音器の聴き比べ

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八日市屋館長による蓄音器の実演タイム。製造年代、造り、響きがそれぞれ違う貴重な蓄音器で聴き比べ。蓄音器の構造、SPレコードとLPレコードの違いなどもわかりやすく解説してくれる。

現在の館長は浩志さんの息子で、レコード・オーディオ店の経営やC D・D V D制作プロデュースなどの経験も豊富な八日市屋典之さん。その音楽・蓄音器への造詣の深さを活かして行われる、毎日3回(11時・14時・16時)の蓄音機の実演が大人気。訪れたのが土曜日だったこともありますが、午前の回はおよそ30人が集まり、補助席が出るほどの大盛況。しかも、ご夫婦連れ2組を除けば、残りは皆さん若い女性ばかり。香港やフランスから訪れた女性客も3人。「蓄音器でレコードを聴いたことがありますか?」と館長が質問すると、経験者はおらず、皆さん初めて聴く蓄音器の音色を楽しみにして来館したようです。

約100年前にエジソンが発明した一番最初の蓄音器と「蝋管」という記録装置の説明から始まり、時代を追ってどのように蓄音器が進化していったのかを学べるとともに、年代・タイプの違う蓄音器1台1台の特性に合わせて「これはバイオリンに合う」「これは歌声が引き立つ」など、館長自らがセレクトした珠玉の名盤レコードが演奏されます。百聞は一見にしかずといいますが、蓄音器はやはり音色を聴いて体験してみないと。わかりやすく笑いも起こる軽快な解説と聴き比べが楽しめるのですから、訪れるなら実演タイムをめがけてが断然おすすめです。


日本有数の蓄音器とSPレコードのコレクション

開館以来、県内外から多くの寄贈があり、現在では蓄音器600台以上、SPレコードは3万枚以上という日本有数のコレクションを誇ります。なぜこれほどのコレクションが集まり、しかも現役で聴くことができるのか。それは初代・2代目館長が、蓄音器の修復技術と深い愛情を持っていたこと。そして、壊れてしまったり、使い手がいなくなった蓄音器やSPレコードを、「廃棄するには忍びない」「大切にしてくれる人に活用してもらいたい」と願う寄贈者の想いが結びついたからです。レコードは使うたびに溝が減り、蓄音器の部品も磨耗していきますが、すでにどちらも生産されていません。だからこそ、寄贈された蓄音器の部品一つひとつが、後世に音色を伝えていくための大切な存在になっているのです。

金沢蓄音器館
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  • 写真1:レコードから日本の音楽史を読み取ることができる。
  • 写真2:今も色あせないスタイリッシュなデザインが多いレコードジャケットの数々。
  • 写真3:収蔵庫には3万枚以上のSPレコードが保管・管理され、館長のお話も同じくらい引き出しが多くて楽しい。

ここを訪れる年配の方はノスタルジーを感じ、若い世代は経験のない蓄音機の響きに新鮮な感動を覚える人が多い。特にデジタル音に馴染んだ世代にとっては、蓄音器が奏でる音は、パチパチというノイズもある一方で、耳あたりがやわらかく、深みがあって落ち着くと好評なのだそう。SPレコードのコレクションは、邦楽・洋楽を問わず、クラシックやシャンソン、浪花節や長唄、落語に漫才までと幅広く、耳での体験はもちろん、時代を彩ったレコードのジャケット展示も見応えがあります。

また、LPレコードのコレクションもあり、3階のリスニングコーナーで視聴することができます。C Dで聴いていたロックバンドの作品をLPレコードで初めて体験し、「今まで聴こえていなかった音が聴こえた」と涙を浮かべていた若い女性客もいたそう。近年はレコードの人気が再燃し、ソニーも約30年ぶりにアナログレコードの自社製造を復活させるなど、レコードで楽しむ音楽の世界がますます注目されています。音楽ファンならぜひ、日本のレコードと音楽愛好の歴史に出会える「金沢蓄音器館」へ足を運んでみてください。音楽ファンでなくとも、館長の実演タイムは一見、一聴の価値ありですよ。


<館長・八日市屋典之さんのとっておき>

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館長が選ぶ「とっておきの1枚」は、戦前の日本人の心をとりこにした元祖美少女バイオリニスト・諏訪根自子のSPレコードです。2013年に日本コロムビアから、戦前の諏訪根自子のSPレコード13枚26曲をCDに収録したコンプリート盤『諏訪根自子の芸術』が発売されましたが、戦火でメーカー原盤の一部が消失しており、その半数の音源は「金沢蓄音器館」が提供しているそう。しかも、同じ曲を4台の異なる蓄音器で録音した音も入れてあり、金属原盤と蓄音器の音色も比較できるようになっているので貴重な記録になっています。

スポット情報
金沢蓄音器館  
石川県金沢市尾張町2-11-21
TEL 076-232-3066
開館時間 10:00〜17:30(入館17:00まで)
蓄音器実演 11:00〜、14:00〜、16:00〜
自動再演ピアノ実演 毎週日曜10:30〜、13:30〜、15:30〜
休館日 年末年始(12月29日〜1月3日)、展示替え期間(不定期)
入館料 一般300円、65歳以上200円、高校生以下無料
アクセス 路線バス・周遊バス「尾張町」「橋場町」下車で徒歩3分
駐車場 8台
http://www.kanazawa-museum.jp/chikuonki/index.html

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